コロナ研究報告:「福岡における文化芸術関係者の新型コロナウィルスの影響に関するアンケート調査」から(ゲスト:九州大学大学院芸術工学研究院 助教授 長津結一郎)

5月31日の放送は、
「福岡における文化芸術関係者の新型コロナウィルスの影響に関するアンケート調査」
に携わられた、長津結一郎さんに、コロナ禍における芸術にかかわる人たちの生の声についてお聞きしました。
 ※フェイスブックにアンケート趣旨や回答の説明があります(https://is.gd/EpJ9pU

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この番組は、毎週日曜の朝にお届けする、
「文化の楽しみ方」が わかる、見つかる、共有できる! 
カルチャー、アートプログラム、 明治産業プレゼンツ「OUR CULTURE, OUR VIEW」。 

あなたの暮らしを豊かにするヒントを、 オリジナルな視点(VIEW)を持ちあわせるゲストとのトークや、 はたまた、パーソナリティが展覧会に突撃したりし、お伝えします。
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九州大学大学院芸術工学研究院 助教授の長津さんは、普段は障がいのある人の表現の活動の研究を行われています。障害があるということで、これまで社会とつながりづらかった人たちがアートの活動を通して違った一面を人々に伝えることができるということを感じているそうです。

長津さんご自身は、大学からも基本在宅勤務でと言われ、緊急事態宣言開けてからも、在宅でお仕事をされています。

最初は、急激な環境の変化に耐えらず、落ち込んだ時期もあったという長津さん。
周辺の人たちが、この逆境を受けてエネルギッシュに活動をしているのを見て、自分にはなにができるかなぁと立ち止まった時があったそうです。
それでも、5月からの授業の準備をしたり、今回の調査に加わらせていただいたりしている
うちになんとか、自分なりに今の状況に接していけばいいと、元気になったと言います。

―長津さん その活動自体はとんでもなく素晴らしいことで、まったく否定するつもりはないんですけど、自分の身体がついていかないということがあるんだなと。
自分は自分のペースでやっていくしかないと改めて感じました。

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―ともやす これからの予測ができない社会の中で、アート分野に対する取り組み方というか、アプローチをどうしたらいいのか、僕自身わからないという不安があるんですけど。

―長津さん その気持ちわかります。僕はずっと障がいのある人とか、社会課題にかかわるようなアート活動にかかわってきたので、そのことから考えると……。
アート限らずどんな活動でもですが、
インクルーシブになっていく側面というのを、大事にしていったほうがいいと思っています。
オンラインでいろいろできるようになると、インクルーシブな側面と、排除を生む側面と両方あると思うんです。

僕はよく、福岡在住の身体障がいのある俳優の人たちとzoomで話しをするんですが、この人達は、これまで、ヘルパーの人に移動の支援を頼まずに、こうやって直接やり取りできる場っていうのがなかったんです。
これを社会運動としてやっている人もいたんですが、なかなか広がっていかなかった。
それが、この数か月で、社会が変わりできるようになった。
社会の仕組みが変わると、そこで生まれる表現っていうのも変わってくるじゃないかと話しています。
こういうふうに幅が広げられたところから、どんな表現や作品が生まれるかなーと
今、とても興味があります。

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後半は、様々な芸術分野で活躍していらっしゃる方、その現場で働いていらっしゃる方々へ、このコロナウイルスで受けた影響について実施したアンケート調査について解説いただきます。

―長津さん このコロナ禍で芸術関係の方が大きな被害を受けているというのを聞き、その内容をもう少し可視化できないかということで、個人と事業所と合わせて706件の回答をいただきました。

―長津さん 見逃しがちだなと思うのは、どういう人が損失を受けているのかいうのこと。
創作活動をやっている方、それをプロデュースする、企画制作の方はもちろん、そういう活動を支えるために技術を提供している方。
例えば、音響、照明の方たちの収入の損失額が圧倒的に大きいです。
創作をしている方よりも、大きいという数字が出ています。

後、最も必要とする支援はなんですかという質問に、延期や中止に伴う損失分の支援とか、
活動を再開のための支援が必要だと。

福岡市の場合は、オンラインでの動画配信を支援する政策があるんですが、それよりも活動を再開していくための支援にニーズが集まってきていると感じました。

音響や照明の人たちは、プロの講演だけではなく、アマチュアのライブや、吹奏楽のコンサート、バレエの発表などのときのホールの方や、テクニカルな方たちなど、そういう労働の場が開かれているというのが大きいと思うんです。
自分が出て発表するという人だけじゃない被害がでているのかなと。

―ともやす だからこそ、再開に向けた支援を求めている人が多いんですね

―長津さん こういうアンケートって、自由記述の欄に、行政への不満みたいなものが書かれることが多いんですが、今回圧倒的にそれが少なくて、とにかくなんとかしたい、なんとかしてくれという、非常に具体的な要望が多かったです。
オンラインの機材の整備のこと、
支援金の制度のこと、
支援が複数にわたりすぎていて、自分がどの支援を受けれられるかわからない、
相談の窓口はないのか
こういう風になってほしいという、
行政や社会であったりへの要望が多かったのを見ると、切実だなと感じるきっかけになりました。
福岡以外の地域でも自主的に民間でアンケート調査をやっていこうと
いう動きが出ています。そうなると、他の地域との比較ができるのではないかと思います。


この調査結果をもとに福岡県、福岡市、福岡市の文化芸術振興財団へ提言を提出されたそうです。


―長津さん 共通して提言させていただいたことは、関係者や現場の声をちゃんと聞いてほしいということ
こういう活動や事業の特性で、プロと呼ばれる人だけではなく、いろいろな人たちが文化を支えているということ
営利・非営利が混在していたりという特性を理解してほしい
本当に今困っている人たちへ速急に支援しほしいということです。

オンラインの支援だけでは足りない。

県、市も何らかの手を打とう、打たないといけないということはわかっていて、
やっていこうとしてはいるんですが、もっとコミュニケーションをとっていかなければいけないし、また、市民の側からも要望を伝えていかなければいけないと思いました。

福岡市で文化というと、エンターテインメント分野、コンテンツ振興の分野にかなり力を入れていると思うんですが。
音楽、美術、いわゆる芸術活動されている方の声が、行政へ届きにくいという状況があったんじゃないかなと感じました。

今回のことをきっかけに、いろんな文化の担い手や、文化のジャンルがあるということを踏まえたうえでの政策、将来の社会に投資していくようなタイプの文化芸術の分野も、幅広く支援していくような政策ができていくといいなと考えます。

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―長津さん 今回、具体的な金額で、これだけの人が困っているということが、可視化できたということが大きいと思っています。
これだけいるっていうことは、自分たちが住んでいる地域に芸術活動している人、それを支える会社っていうのがあるっていうことなんです。
それは、いままで可視化されてなかったと思います。
住んでいる人たちに、理解や共感が広がるようなことをやっていけたらと思います。

―長津さん 大学の授業でも、教えること変わっちゃいますよね。
これまでも、いくつか文化の分野での転換期ってあったのですが。
例えば、大きな震災とかが起こったときというのは、文化や文化の担いが、変わる時期なんです。今回、間違いなく教書に載るような出来事を、現在進行形で体感している。
時代の真っ只中にいるなと感覚があるので、今、社会で起こっていることをちょっと引いた立場から、丁寧に見て残したり、研究者として書いたりしてきたいと考えてます。

元々やろうとしていた企画も、「この状況下ではできない」となったとき、「じゃあ、もともとこの企画が大事にしていたことってなんだっけ」と、一度立ち戻って「今の技術でどういうことができるかな」と考えて、
「そもそもやりたかったことってなんだっけ?」ていうところに、戻れる時期なのかなって思います。
そこから、新しい表現が生まれてくるきっかけになるのかなと、そんな風に実践では考えています。

―ともやす こういう話をすると、よく「このおかげでっていういと不謹慎かもしれませんが」というフレーズを聞くんですけど、でも、それって不謹慎ということではなくて、
がんばってそういう方向に考えを持っていったんですよね。
「本質は何だろう」ってがんばって考えをもっていったんです!

―長津さん そういう「不謹慎」と自粛に追い込まれている人たちの、一番しんどいところが今回の調査に出てきています。
コロナの問題は非常に難しいですけど、自粛しろっていう圧力を与えるよりも、
今の状況で何かできることを探していくことに徐々にシフトしていく時期かなと
思います。



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